食物繊維とがん予防

山陰中央新報社 台所でできるがん予防
元鳥取大学医学部教授 井藤久雄著より

 

 食物繊維がなぜ大腸がんを予防するのか、研究が進められました。
 一口に食物繊維といっても、その種類は多彩。大きく分けると、水に溶けるもの(水溶性)と溶けないもの(不溶性)があり、その作用も異なるのです。
 水溶性食物繊維にはペクチン(果物に多い)、マンナン(こんにゃくや芋類)、アルギン酸(海草)などがあり、粘り気があるのが特徴です。血糖値の安定化、コレステロールの吸収阻害、また消化管粘膜に付着して保護したり有害物質の吸収を抑制します。一方、不溶性食物繊維はセルロースやヘミセルロース(穀物や野菜の細胞膜)が代表的なもので、食べた時にはパサパサした感じを与えます。便量増大や水分吸収による排便促進、有害物質の吸着作用などが確認されています。
 大腸がんの発生率は脂肪摂取量と比例しています。脂肪を摂取すると、これを消化するため胆のうから胆汁酸が排せつされ、大部分は小腸から再吸収されます。一部は大腸に達し、そこで腸内細菌の作用を受けてデオキシコール酸やリトコール酸と呼ばれる二次胆汁酸になり、これが大腸がんの発生を促進させるのです。不溶性食物繊維は二次胆汁酸やその他の発がん物質を吸着し、体外に排せつします。水溶性食物繊維は吸収を阻止。つまり、食物繊維の多い食事では二次胆汁酸の発生が少なく、しかも、それが吸収されにくく、排せつされやすいのです。
 便秘は何となくおなかの調子が悪く、すっきりした気分になれません。便秘になると便が腸内にとどまり、この結果、大腸の粘膜上皮が発がん物質や有害物質の作用を長時間受けることになります。不溶性食物繊維は便量を増やして有害物質を薄めると同時に、腸のぜんどうを高め、加えて水分を吸収して便を軟らかくし、排便を促します。
 さて、私たちの腸内には約百種類、百兆個の細菌がおり、その数はほぼ一定に保たれています。細菌はビフィズス菌や乳酸菌のような善玉とウエルシュ菌などの悪玉に分類され、食物繊維は善玉のビフィズス菌を増やしてくれます。ビフィズス菌は腸内を酸性に保ち、これにより大腸がん”育ての親”である二次胆汁酸の合成が抑制されます。悪玉菌の減少にも効果があります。
 少し専門的な話になりましたが、要約すると、食物繊維は便の腸内滞留時間を短くすることにより大腸がんの発生を抑えているのです。食物繊維は大腸がん予防のエースなのです。
 一日に摂取すべき食物繊維は20グラム以上。ところが、国民栄養調査では平均16グラムしか摂取していません。不足分は食物繊維の入った錠剤型食品や健康飲料水で補ったらどうか、答はノー。食物繊維の種類は多く、働きも異なります。特定の繊維を補っても効果は期待がもてません。
 食物繊維をとり過ぎる副作用として、吸収障害によるミネラルの不足が知られています。結局のところ、パンや穀類、豆類、野菜、果物などからバランス良く食物繊維を摂取することが大切なのです。それによりミネラル不足も起こりません。

[メモ]
ビフィズス菌:腸内善玉細菌の代表で、乳酸や酢酸を産生して腸の運動を活発にし、有害菌を抑制します。赤ちゃんの腸内細菌は大部分がビフィズス菌ですが、成人になると食生活の影響で極端に減少します。ビフィズス菌の含まれた乳製品が市販されていますが、菌は胃酸で死に、腸に到達できません。ビフィズス菌を増やすオリゴ糖の入った製品では腸内での増加が期待できます。

オリゴ糖:小糖類の一種で、ブドウ糖や果糖などが数個から十個程度結合したもの。いろいろな種類がありますが、現在ではフラクトオリゴ糖が一般的です。消化・吸収されにくい(ダイエット用)、大腸に達してビフィズス菌の活動を助ける(整腸作用)、甘味が低く、虫歯になりにくいといった特徴があります。