「がん治療の進歩とがんの予防」
平成5年10月23日(土)
(財)癌研究会附属病院名誉院長
西 滿正
がんは日本のみでなく多くの諸外国でも第1位を占めるようになりました。
日本では第2次世界大戦後、結核をはじめとする感染症が急速に減少し、現在、死亡原因の順位はがん、心臓病、脳血管障害となっています。
がんはがん細胞の塊ですが、がん細胞は悪質な暴力団でゲリラのようなものです。われわれの正常な細胞の突然変異によって起こります。がん化には内因と外因があります。がんは人体のどこにでもできますが、性別、年齢、地域、職業や風習などによっても、できやすい癌の場所が異なります。日本では胃癌、大腸癌、肝臓癌など、消化器系統のがんが多いのです。
- 診断の進歩
本当にがんかどうか(質的診断)、がんの広がりはどうなっているか(量的診断)を知ることは、治療を始める前に大事なことです。
細胞診、組織生検、X線検査、内視鏡検査、超音波検査、CT、MRI、血管造影、腫瘍マーカーなど、最近10年間位の間に非常に進歩しました。このような診断技術の進歩は集団検診や人間ドックの普及と相まって、早期癌、中期癌が増え、晩期癌、末期癌が減少しています。ほとんど100%完全治癒する早期癌が臓器によっては50%以上を占めるようになりました。 - 治療の進歩
がんの治療には手術、放射線、抗癌剤の3つの柱のほか、ホルモン療法、免疫療法などがあり、そのいずれの分野でも著しい進歩が見られています。
完全治癒をめざす根治性、合併症のない安全性、機能や美容を考慮して社会復帰できるようにする工夫などが行われています。手術はがんの進行程度や宿主(担癌患者)の状況に応じて、縮小手術、標準手術、拡大手術が行われ、近年、その治療成績はますます向上して参りました。放射線療法も線源や照射法の改善、温熱療法や化学療法との併用も盛んです。抗癌剤は新しい薬剤の開発や投与法の開発が進んでいます。
そのほか、内視鏡的治療(レーザー照射、粘膜切除など)もさかんになりました。そして小さな早期癌は開胸や開腹をしないで治す、小さな手術で治すことなどもできるようになりました。他方、拡大手術も安全になり、今まで治せなかった進行癌も治せるようになりました。手術と放射線と抗癌剤などを合併して治りにくい癌を治そうという、集学的治療も盛んに行われています。また癌の告知の問題、末期癌に対するターミナルケア、ホスピスなども熱心に検討されています。 - がんの予防について
がんは早期発見できればほとんど完全に治るものが多いので、早期発見のことを2予防といい、がんにならないような工夫を1次予防といっています。1次予防では食生活や生活風習が大事ですが、大気や水などの環境も関係が深いのです。このようながんの予防についてもお話しいたします。
2次予防としての早期発見には、国および自治体が胃癌、肺癌、子宮癌、乳癌、大腸癌などに対して全国的な規模で取り組んで良い成績をあげており、日本はまことに恵まれた国と言えましょう。
癌の本態の解明、診断や治療の向上も日進月歩です。がんを恐れず、侮らず、正しい知識を持って、がんで死なないように努力しましょう。
西 滿正 先生 ご略歴
大正14年1月4日生 | 大正14年1月4日生 |
1943年10月 | 第七高等学校造士館理科乙類卒業 |
1949年3月 | 名古屋大学医学部卒業 |
1950年8月 | 東京大学病理学教室入局(吉田富三先生に師事) |
1957年4月 | 東京大学木本外科入局 |
1958年7月 | 学位授与さる |
1960年1月 | (財)癌研究会附属病院外科入局 |
1968年5月 | 医長(胃癌、肝・胆・膵癌担当) |
1972年11月 | 鹿児島大学医学部第一外科教授 |
1984年9月 | (財)癌研究会附属病院副院長兼外科部長 |
1988年7月 | (財)癌研究会附属病院院長 |
1993年7月 | (財)癌研究会附属病院名誉院長 |