“がんの予防を考える”
平成16年10月30日(土)
-がんに罹らないためにはどうしたらいいか-
-がんで死なないためにはどうしたらいいか-
放射線影響研究所 主席研究員・疫学部部長
児玉 和紀
1.はじめに
我が国では人口構成の高齢化が急ピッチで進んでおり、平成14年には65歳以上の高齢者の数は2363万人にもおよび、全人口の実に5人に1人が高齢者といった時代になってきています。この傾向は今後も続き、2021年には4人に1人が高齢者となり、その時点で日本が世界一の高齢化社会をむかえると予想されています。
ところで、わが国の3大死因をみると、平成13年には一位ががん、2位が心臓病、3位が脳卒中となっており、このうちがんで約30万人が亡くなっています。また1年間にがんに罹る人はこの約2倍と考えられております。今後高齢化が更に進むと、がんに罹る人やがんで亡くなる人の数は更に増えると予想され、これまで以上にがんが日本国民の大きな健康問題になっていくことは疑う余地がありません。今からがんの予防に真剣に取り組まないと、大変な問題になってしまいます。
2.生活習慣病とは
がん、脳卒中、心臓病などは以前『成人病』と呼ばれていました。それはこれらが壮年期以降の成人に多く見られる病気だから、このように呼ばれてきました。しかしながら、これらの病気の多くは誤った食生活、運動不足、喫煙、過度の飲酒、休養不足などの生活習慣に起因していることが学問的に証明されるようになり、さらに生活習慣を改めることにより、病気の予防が可能であることも判明したため、がん、脳卒中、心臓病などは平成8年より『生活習慣病』と呼ばれるようになりました。
3.病気予防の段階
病気の予防には3つの段階があります。健康生活を送ったり、病気の原因となる危険因子を除いたりして病気にかからないようにする予防法を一次予防といいます。市町村の検診やドックなどを受診して病気を早期に発見し、早期に治療する予防法を二次予防と呼んでいます。不幸にも一旦発病してしまったら、救命し、重症化を防止し、社会復帰のためにリハビリを行ったり再発を防止したりする予防法を三次予防といいます。
どの予防法もそれぞれ大切ですが、病気そのものにかからないようにする一次予防が最も望ましい予防法で、次いで早期発見・早期治療の二次予防となります。そこで、以下にがんの一次予防と二次予防を解説します。
4.がんの一次予防
がんの一次予防についてですが、表1に国立がんセンターが制定した『がん予防12か条』を示しました。
がんを引き起こす環境要因として、広島では放射線がよく知られていますが、最も重要なものは生活習慣と関連した因子です。その中でも食事中には数多くの発がん因子が含まれており、また食生活によりがんが発生・進展しやすい状況が出来たりすることより、がん予防12か条も食生活が中心になっています。バランスの取れた栄養を取る、変化のある食生活を、食べ過ぎを避け脂肪を控えめに、適量のビタミンと繊維質のものを多くとる、塩辛いものはすくなめに、熱いものはさましてから、焦げた部分は避ける、かびの生えているものに注意、などはいずれも食生活に関係するものです。
食生活以外ではひとつの因子でありながら、がん・心臓病・脳卒中・肺気腫・肝臓病など多くの問題を引き起こす喫煙も忘れてはならず、喫煙者は禁煙に努めるべきです。喫煙者では非喫煙者と比べてがんによる死亡率が高く、喉頭がん32.5倍、肺がん4.5倍、食道がん2.2倍、胃がん1.5倍、肝臓がん1.5倍、膵臓がん1.6倍、膀胱がん1.6倍といったデータもあります。日本人のがんでは以前は胃がんで死ぬ人が一番多かったのですが、今は肺がんで死ぬ人が一番多くなっています。喫煙の悪影響が出てきていることは疑いなく、タバコ対策をいっそう進めていく必要があります。なお、他人のタバコの煙を吸ういわゆる受動喫煙の害もよく知られており、禁煙以外にも防煙対策も重要であることを付け加えておきます。
濃いアルコールの飲酒もがんとの関係が知られていますので、飲酒もほどほどにする必要があります。運動習慣のない人に大腸がんが多いことも知られており、日光に当たりすぎると皮膚がんが増えてきます。
このように、がんの一次予防では、生活習慣の改善が大きな要素となっています。
5.がんの二次予防
がんでは体にがん細胞の芽が出来て病気として表に出てくるまでに何年もかかることが知られています。言い換えると、がんの一次予防対策は非常に重要ではありますが、がんが既に体のどこかに出来てしまっているケースが残念ながら多くあるのが実情です。したがって、一次予防対策だけではがん予防は不完全と言わざるをえませんので、早期発見・早期治療を目指した二次予防が非常に重要です。肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がんなどの検診を受けて早期発見に努めましょう。
老人保健法でがん検診がなされており、検診受診率50%を目指していますが、残念ながら受診率の高い都道府県でも40%程度にとどまっており、受診率がほんの数%のところもあります。これでは有効な二次予防は望めませんので、皆さんがん検診をぜひ受けてください。また、乳がんでは自分でしこりの有無がチェックできますので、ぜひ自己触診法を習ってください。
6.おわりに
以上、がんの予防について述べました。がん予防法を一言で言えば「まず禁煙、そして早期発見」になります。
高齢化社会を快適に過ごすには、がんと脳卒中や心臓病などの予防が特に大切になります。もちろん他に骨折の予防や老人性痴呆の予防なども必要ですが、これらの予防法もその中心は生活習慣の改善になります。自分の生活習慣を見直して、改善すべき点があればぜひ改善にトライしてください
児玉 和紀 先生 ご略歴
昭和 22年 | 広島県生まれ |
昭和 47年 | 広島大学医学部医学科卒業 |
昭和 51年 | 米国エール大学セントラファエル病院内科 内科レジデント |
昭和 54年 | 米国エール大学セントラファエル病院 心臓臨床フェロー |
昭和 58年 | 広島大学医学部附属病院集中治療部 講師 |
昭和 64年 | 放射線影響研究所臨床研究部 部長 |
平成 11年 | 広島大学医学部保健学科健康科学 教授 |
平成 14年 | 放射線影響研究所 主席研究員・疫学部部長、現在に至る |
活動として、日本疫学会、日本循環器病予防学会、日本公衆衛生学会などの理事・評議員を、また京都大学大学院、自治医科大学などの非常勤講師を務める。