「人間社会とがん」
平成6年10月21日(金)
広島大学医学部教授(病理学)
田原 榮一
「がん」は、人類を悩ます最も手ごわい敵であり、その克服は現代社会における最大の課題であります。今日、がん研究の著しい進歩により、「がん」は長期間にわたる複数のがん関連遺伝子異常の蓄積によって発生する「遺伝子の病気」であることが明らかにされています。さらに、「がん」の診断や治療の分野においてもめざましい進歩がみられ、早期発見と早期治療で「がん」が治るようになってきました。しかしながら、我が国においては、昭和56年から死因の第1位は「がん」であり、全死亡の3.8人に、1人、毎年22万人以上の人が「がん」で亡くなっている現状であります。その上、今後も人口の高齢化に伴い「がん」の発生は確実に増えつづけ、西暦2000年には1年間に50万人近くが「がん」にかかると予測されています。まさに、「がん」は「老化病」の1つと見なされます。
それでは、「がん」の原因は何でしょうか。前述のごとく、「がん」は複数のがん関連遺伝子異常の蓄積によって発生してきますが、その原因は自然環境、社会環境および食事、タバコを中心とする生活環境に含まれる数多くの発ガン物質であります。すなわち、それらの発ガン物質ががん関連遺伝子の変化を惹起させることによって、「がん」が発生してくるのであります。従って、我々の成人のがんの多くは、「環境がん」とも言えます。事実、我が国では近年のライフスタイルの欧米化により、「がん」も変わってきており、男女ともがんの第1位であった胃がんが減少し、肺がんおよび結腸、直腸がんの著しい増加がみられ、昨年は、男性では肺がんががん死亡の第1位を占めるようになりました。このことは、最近、我が国のがんのパターンが、欧米人のパターンに近づいていることを意味しています。
このような実情をふまえ、「がん」にならないための一次予防、早期発見によってがん死を防ぐ二次予防、がんの再発・転移を防ぐ三次予防について、いくつかの対策が行われています。
今回の公開講座では、がんの発生機構とともに、如何にライフスタイルががんの発生に関わっているか、そして、ライフスタイルを通じてガンの一次予防の効果と限界、更にがん別に一次予防か二次予防かなどについて概説する予定です。
田原 榮一 先生 ご略歴
昭和11年7月19日生 | |
昭和38年3月 | 広島大学医学部卒業 |
昭和38年4月 | 広島県立広島病院にてインターン |
昭和39年4月 | 広島大学大学院医学研究科病理系病理学専攻入学 |
昭和43年3月 | 医学博士の学位授与 |
昭和43年4月 | 広島大学医学部病理学第二講座助手 |
昭和47年1月 | 広島大学医学部病理学第二講座講師 |
昭和50年10月 | ドイツ連邦共和国フンボルト財団奨学研究員として ボン大学病理学研究所( Prof.P.Gedigk )に留学 |
昭和52年1月 | 広島大学医学部病理学第二講座助教授 |
昭和53年6月 | 広島大学医学部病理学第一講座教授、現在に至る |
専門:消化器の腫瘍病理学