第21回広島がんセミナー・第5回三大学コンソーシアム県民公開講座

「子宮がん・乳がん・前立腺がんの診断・治療の進化」

平成23年11月5日(土)

第21回広島がんセミナー・第5回三大学コンソーシアムの県民公開講座「子宮がん・乳がん・前立腺がんの診断・治療の進化」をテーマとして島国際会議場で開催された。
講師は、公益財団法人がん研有明病院副院長の瀧澤 憲 先生・NPO法人乳がん患者友の会きらら理事長の中川  けい 先生・鳥取大学医学部教授の武中 篤 先生の3名が講演された。
尚、三大学関係者、広島県がん診療連携拠点病院関係者、一般県民を含めて約205名の参加。
本公開講座を通して、今後も増加する子宮がん・乳がん・前立腺がんの診断・治療の進化についてご理解頂ければ幸いです。

演題:
子宮頸がんの診断と治療の進歩
一次予防(HPVワクチン)と二次予防そして治療のPitfall-

公益財団法人・がん研有明病院副院長・婦人科部長
瀧澤 憲 先生

大部分の子宮頸がんの発生はヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頚部に感染することから始まります。HPVは感染した細胞の中で仲間を増やしながら次の感染機会を待ち、又、感染細胞を腫瘍化させます。100種をこえるHPVのうち13種類はハイリスク型HPVと言い、安価な検査で感染の有無が診断できます。最近では、ウルトラハイリスクの7種類に感染しているか否かも、高価ですが検査できるようになりました。
HPVが粘膜の小さな裂け目から侵入してきても、特異的な抗体が身体にできていれば、HPVが細胞内に侵入する前に中和して、感染を免れます。最近、2種のワクチン、サーバリックスとガーダシルが使えるようになりました。ガーダシルは日本女性の子宮頸がんの60%の原因を占めるHPV16型、18型と、外性器にできる厄介な尖圭コンジローマの原因になるHPV6型、11型に対する4種の免疫抗体を誘導します。現在は、思春期女子を対象に公費で集団接種するのが世界の潮流です。婦人科臨床の現場では、HPVに感染して腫瘍化を始めた前がん病変(子宮頚部異型成)の細胞内HPVを不活化できれば、早期診断早期治療という二次予防が完成するのですが、実用化には更に10年は必要でしょう。
現状では、0期のがんに近い高度異型成から浸潤を開始したばかりという初期病巣を早期診断して治療します。40歳代前半までは、子宮頚部を円錐形に切除する外科手術で子宮本体を温存できます。手術の課題は、1)目前のがんを治す事、2)切除後の子宮頚部を変形させない事、3)妊娠時に流産・早産のリスクを高めない事ですが、実地臨床では、努力と工夫にも関わらず問題をはらむ手術です。ウルトラハイリスクHPVに感染していれば、中位の異型成でも円錐切除等で治すという考え方がありますが、1)中程度の異型成なら、進展するより消褪する方が多い事、2)目前の病巣が治っても新たながんの発生が一般に比べて多い事、3)治療後に子宮頚部が変形したり閉塞すると以後適切な検査ができない事等のため、安易な治療を戒めています。
本講演では、私共が試みている子宮頸がんIb期に対する手術の縮小、術後再発のハイリスク例に対する化学療法、さらに放射線治療後のがん遺残例や再発例にたいする救済手術についても説明します。

たきざわ けん
瀧 澤 憲 先生

ご略歴
 
昭和48年  3月
 東京大学医学部医学科卒業
昭和48年  5月
 東京大学医学部附属病院産婦人科研修医
昭和48年  9月
 東京都立築地産院産婦人科医師
昭和49年11月
 東京大学医学部附属病院産婦人科研修医
昭和50年  6月
 東京大学医学部附属病院産婦人科非常勤医
昭和51年  3月
 東京大学医学部附属病院産婦人科文部技官
昭和53年  9月
 東京大学医学部産婦人科学教室文部教官助手
昭和54年10月
 東京大学医学博士
昭和55年  9月
 埼玉県立がんセンター婦人科医師
昭和56年  5月
 東京大学医学部産婦人科学教室文部教官助手
昭和56年11月
 米国 NIH, NICHD, Pregnancy Research Branch 留学
昭和58年11月
 三楽病院産婦人科医長
昭和59年10月
 東京女子医科大学産婦人科講師
昭和60年11月
 東京女子医科大学産婦人科助教授
昭和62年10月
 日本産科婦人科学会認定医
平成  6年  5月
 東京女子医科大学第二病院産婦人科助教授
平成  7年  4月
 東京大学医学部助教授(分院産婦人科)
平成  9年  4月
 社会福祉法人三井記念病院産婦人科部長、
 東京大学医学部及び筑波大学医学部非常勤講師を兼務
平成16年  9月
 (財)癌研究会附属病院 婦人科副部長
平成17年  3月
 (財)癌研究会有明病院 婦人科部長
平成20年11月
 (財)癌研究会有明病院 院長補佐(兼務)
平成21年  9月
 (財)癌研究会有明病院 副院長(兼務)
研究分野
産婦人科臨床腫瘍学、性感染症学、生殖毒物学
役職
日本産婦人科学会評議員、日本婦人科腫瘍学会理事、日本産婦人科手術学会理事、婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構(JGOG)理事
資格
日本がん治療認定医機構 暫定教育医、日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医

演題:
乳がん・あなたとあなたの大切な人のために

NPO法人乳がん患者友の会きらら理事長
中川 けい 先生

わが国では戦後から「乳がん」の患者さんが増えるようになり、約10年前から日本人女性がかかる「がん」の第一位となりました。現在では日本女性の約16人に1人が乳がんにかかると言われています。このように乳がんはもはや「他人事」の病気ではなくなってきました。しかし、乳がんは早期発見すれば90パーセント以上の人が治る病気です。乳がん発見のための基本的な検査はマンモグラフィー検査と超音波検査ですが、最近の診断技術や機器精度の向上もあり、非常に早期に発見することが可能になりました。また乳がんは、自分で見つけることができる数少ないがんの一つです。だからこそ医療機関での定期的な検診受診と、月に一度の自己検診で早期発見を心掛けていただきたいと願っています。
乳がんの治療法は、外科療法・薬物療法・放射線療法の3つの柱があります。それぞれの分野での治療方法やその成績と、さらにこれらを組み合わせて行う集学的治療は進化しています。薬物療法においては、分子標的薬の登場など新しい薬剤が広く使えるようになり、治療効果もめざましく向上してきました。これらにより患者さんのQOLを重視した治療法を選択することはもちろんですが、バイオマーカーを用いて感受性を重視した薬物治療法を選択することも可能になり、今後の乳がん治療においてますます重要になってくることと思われます。一方残念ながらがんが再発しても、治療薬や副作用に対する予防薬の進歩などによって、長期予後も見込めるようになってきました。こうした乳がん診療の進化は、「オーダーメイド医療」の実現に大きく貢献し始めていると言えます。
今年6月にシカゴで開催された第47回米国臨床腫瘍学会(ASCO2011)にPatient Advocateとして参加させて頂く機会がありました。乳がんに関しては、アロマターゼ阻害剤(AI剤)の乳がんに対する発症予防試験の結果が注目を集めました。本試験は乳がんの一次予防にAI剤を使用した最初の無作為化比較試験ですが、プラセボ群とエキセメスタン投与群との差が歴然としていたのが印象的でした。この試験結果から乳がんの一次予防に関して、今後AI剤であるエキセメスタンが有望であると期待できます。今後の検証の成り行きに大いに注目してゆきたいと思います。
以上のように、乳がんの診断・治療における進歩は、近年目を見張るものがあります。今後の乳がんの診療においては、より高い専門性が求められてくるものと思われます。

なかがわ け い
中 川 け い 先生

ご略歴
 
1958年 5月 
生まれ
1981年 3月 
広島女学院大学文学部卒業
大学卒業後、公立中学校教諭などを経て結婚
2000年 8月 
乳がんと告知される
2003年 1月 
乳癌患者友の会きららを立ち上げる
2008年 5月 
特定非営利活動法人広島がんサポート設立、副理事長に就任
2008年 より 
広島大学大学院総合科学研究科非常勤講師
2009年       
国際ソロプチミストアメリカ日本西リジョン
「女性のために変化をもたらす賞」受賞
2011年       
きららの法人化により特定非営利活動法人乳がん患者友の会きらら・理事長就任

委員など
日本乳癌学会診療ガイドライン委員会委員
国立がん研究センターがん対策情報センター「患者・市民パネル」メンバー
三大学コンソーシアム「がんプロフェッショナル養成プラン」外部評価審査委員

演題:
前立腺がんの診断と治療の進歩

鳥取大学医学部器官制御外科学講座腎泌尿器学分野教授
武中 篤 先生

高齢化社会に突入し、前立腺がんが急増しています。このことは、多数の著名人がこれを公表していることからも容易に推測できますが、その多くは適切な治療を行い、罹患前と変わらぬ活躍をされていることも御承知のとおりです。
前立腺は骨盤の最深部に位置する生殖臓器の一つです。前立腺がんは、近年、血液検査による腫瘍マーカー測定(PSA、前立腺特異抗原)と生検法の進歩により、早期に発見が可能となりました。そして、多くの早期がん患者が寿命を全うできるようになりました。まさに、前立腺がんは根治可能な病気になったわけです。昨今は、前立腺がんを単に根治し余命を延長するだけではなく、これを「いかに治すか」が問われる時代になってきました。
我々が目指す最先端の前立腺がん治療は、がんの根治と低侵襲性・生活の質(quality of life, QOL)の維持・向上を兼ね備えた治療であります。この2つは前立腺がん治療の両輪であり、「人にやさしい医療」とは、これらを兼ね備えた治療ということができます。
早期前立腺がんの根治治療は、大きく手術療法と放射線療法に分けられます。手術療法の中には、従来からの開放性手術以外に、小切開手術、腹腔鏡手術、そして最先端技術の粋を集めたロボット手術など様々な方法があります。特に、ロボット手術は欧米ではすでに確立した術式で、本邦でも近年、薬事法でその使用が承認され、今後急速な普及が予想されています。一方、放射線療法では、治療放射線の源(線源)を前立腺の中に埋め込む小線源療法、そしてコンピューター制御により前立腺組織のみに高線量を照射し、周辺臓器の被曝を極力軽減することのできるIMRT (強度変調放射線療法)等、治療機器や技術は目覚ましく進歩を遂げています。
このように早期前立腺がんの治療には多くの選択肢があります。専門医は、各個人の状態や希望に応じ、がんの根治と低侵襲性・生活の質の維持・向上を満たす治療について偏りのない情報を提供することが求められます(テーラーメイド治療)。治療法選択において、「正解」は各個人によって異なります。不幸にも前立腺がんに罹患された場合は、多くの治療選択肢を有する施設で納得いくまで泌尿器科専門医と相談され、その特徴や長所・短所を十分に理解した上で治療法を決定されることが肝要であると考えます。
たけなか あつし
武 中 篤 先生

  ご略歴
 
昭和61年 3月 
山口大学医学部医学科卒業
昭和61年 7月 
神戸大学医学部付属病院研修医
昭和62年 4月 
神戸大学大学院医学研究科(外科系、泌尿器科学専攻)入学
平成  3年 3月 
 同修了
平成  3年 4月 
労働福祉事業団関西労災病院泌尿器科、医員
平成  8年 4月 
兵庫県立がんセンター泌尿器科、医長
平成15年 4月 
川崎医科大学泌尿器科学講座、講師
平成18年 1月 
米国コーネル大学医学部泌尿器科学講座、客員教授
平成19年 5月 
神戸大学大学院医学研究科外科系講座腎泌尿器科学分野、准教授
平成22年 7月 
鳥取大学医学部器官制御外科学講座腎泌尿器学分野、教授
資格等
 
昭和61年 5月 
医師国家試験
平成  3年 4月 
日本泌尿器科学会専門医
平成  5年 3月 
日本病理学会死体解剖資格認定
平成  8年 4月 
日本泌尿器科学会指導医
平成18年 1月 
daVinci Surgical System Training Program(University of California Irvine)
平成19年 5月 
日本泌尿器科学会、日本泌尿器内視鏡学会  腹腔鏡技術認定
平成20年 1月 
日本内視鏡外科学会技術認定(泌尿器腹腔鏡)
平成20年 8月 
日本がん治療認定医機構  がん治療認定医
受賞等
 
平成17年 4月 
第93回日本泌尿器科学会総会賞
平成19年11月 
第21回日本Endourology・ESWL学会オリンパス賞(ビデオ部門)
平成17年 4月 
第17回日本泌尿器科学会賞(臨床研究部門)
専門領域
 
泌尿器悪性腫瘍、低侵襲手術、骨盤外科解剖