第9回広島がんセミナー県民公開講座

「環境とがん、予防と診断」

平成11年10月1日(金)

内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)とがん

名古屋市立大学・学長
伊東 信行

講演要旨

内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)は現在生活環境中に約70種類以上もあるとされています。それを人々が懸念しているのは、男女両生殖器系や発がんへの影響のほか精神障害や免疫系など、その作用が広範囲に及ぶとされているためでしょう。ここで重要なのはその作用強度や汚染の量などに大差のあることです。世間は全てが同じように人に対して強い影響を与えると過大に懸念しています。しかし現状では、発がんなど人に対し影響を示すと考えられる明らかな科学的根拠は見出されていないのです。今後は未知の物質での作用機序や強度についてさらなる研究が必要であると考えます。

伊東 信行 先生 プロフィル

1952年 奈良県立医科大学卒業
1974年9月 名古屋市立大学医学部第一病理学講座教授
1991年4月 同大学医学部長
1994年3月から 名古屋市立大学長
1994年 公立大学協会会長、第53回日本癌学会会長
1998年 厚生省内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会座長
1985年 高松宮妃癌研究基金学術賞、第38回中日文化賞
1995年 武田医学賞、紫綬褒章
1996年 吉田富三賞受賞

専門は、がんの民族疫学、がんの病院疫学。
学会活動として、日本疫学会、アジア・大平洋癌学会、日本癌学会、日本病理学会、日本リンパ網内系学会、日本公衆衛生学会、日本衛生学会、などの理事、評議員を務める。また、文部科学省がん特定研究のがん疫学研究領域の代表者でもある。

 

がん診断の進歩と治療適応について

国立がんセンター東病院・副院長
吉田 茂昭

講演要旨

早期診断の進歩は外科治療成績を大きく向上させましたが、同時に数多くの小型で転移のない早期癌の発見を可能とし、これらに対しては、内視鏡的切除術やエタノール注入療法などの非外科的治療で十分に根治が得られています。また、切除不能のがんであっても、胃がんでは化学療法に良く奏効した場合には長期生存が期待でき、食道がんでは放射線化学療法によって治癒をも見込める状況になっております。この様ながん診療の最前線についてその現況をご紹介するとともに、治療法の多様化に伴う新しい問題、すなわち、病名告知を含めた「説明と同意」(医者から患者さんへの情報公開)などについても皆様とご一緒に考えてみたいと思います。

吉田 茂昭 先生 プロフィル

1971年 北海道大学医学部卒業
国立がんセンター病院内科レジデント、同消化器科医長
1987年6月より 米国Mayo Clinicに留学
1992年7月 国立がんセンター東病院内視鏡部長
1995年5月 国立がんセンター東病院副院長就任

専門は、消化器がんの内視鏡診断、内視鏡治療、化学療法、腫瘍生物学など。

がん医療における病理診断の重要性

日本癌学会会長、広島大学医学部教授
田原 榮一

講演要旨

病理診断は、病理医によって行われるがんの最終診断です。これによって、がんの性質、がんの進行度、更にはがんの治療方針など所謂がんの質的診断を行うことができます。このように、病理診断は、診療行為としてがん医療において重要な役割を果たしています。それに、遺伝子診断を加えた「分子病理診断」は、がんの個性診断であり、良性悪性の鑑別、悪性度、遺伝性腫瘍、多重がんの予知などを評価することができます。質の高いがんの「分子病理診断」は、がん医療のレベルを高く保つ要(かなめ)であることを解説します。

田原 榮一 先生 プロフィル

昭和11年7月19日生
昭和38年3月 広島大学医学部卒業
昭和38年4月 広島県立広島病院にてインターン
昭和39年4月 広島大学大学院医学研究科病理系病理学専攻入学
昭和43年3月 医学博士の学位授与
昭和43年4月 広島大学医学部病理学第二講座助手
昭和47年1月 広島大学医学部病理学第二講座講師
昭和50年10月 ドイツ連邦共和国フンボルト財団奨学研究員として
ボン大学病理学研究所( Prof.P.Gedigk )に留学
昭和52年1月 広島大学医学部病理学第二講座助教授
昭和53年6月 広島大学医学部病理学第一講座教授、現在に至る

専門分野は病理学および腫瘍生物学。