第15回広島がんセミナー県民公開講座

共催
第8回日本尊厳死協会中国地方支部年次大会・公開講演会

『がん医療のセカンドオピニオン、インフォームドコンセントとがん告知』

平成17年10月29日(土)

演題:セカンドオピニオンのすすめ

元順天堂大学医学部放射線科教授
広川 裕 先生

1.セカンドオピニオンとは

 皆さんは、「セカンドオピニオン」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?「ある」とお返事された方はご存知だと思いますが、直訳すると「2番目の意見」という意味になります。医療における「2番目の意見」ということですから、主治医とは違う「他の先生の考えを聞いてみること」を意味します。

2.セカンドオピニオンの前に

 どこかの医院や病院で診てもらっている患者さんが、主治医の説明や治療法に納得がいかなかったり不安を感じたりする場合は、まずはもう一度その先生によくお聞きするようにしましょう。忙しい主治医との間の行き違いは、ただのコミュニケーション不足によることもあるでしょうから、じっくり主治医と話し合う時間を取ってください。ご家族に立ち会ってもらい、メモを取りながらお話しを聞いたり、テープレコーダーで録音しながら聞いたりするのも良いと思います。
それでも他の先生の意見も聞いてみたいと思われる時は、主治医の先生に勇気を出して「セカンドオピニオンを受けてみたい」と言ってみてください。怒ってしまう先生や穏やかに受け止めてくれる先生など、色々な反応があるはずですが、その時の先生の言葉や態度を観察してみて下さい。その先生の考え方や性格など、今まで以上にはっきりと見ることができるはずです。セカンドオピニオンを積極的に勧めてくれる先生は、独断的でなくフェアに患者さんのことを考えてくれていると言えるでしょう。

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3.セカンドオピニオンの受け方:その1

 とてもじゃないが遠慮で言い出せないという方に、良い方法をお教えします。「私は気が進まないのですが、東京に住んでいる長男が知人から○○病院の○○先生を紹介されたので、どうしても診てもらうようにと言って来ました。先生、今までの経過などを紹介状に書いていただけないでしょうか?」というような言い方で、あなたではない第三者からの提案であることを強調されると、意外と先生の心証を害することなくうまくいくはずです。
 セカンドオピニオンといっても、同じ病院の中でできる場合もあります。例えば呼吸器外科に入院している場合、呼吸器内科の先生や放射線科の先生から意見を聞くことができれば、異なった立場からの別の考え方が参考になるはずです。院内紹介で他の科を紹介されて受診するような機会があれば、セカンドオピニオンの絶好のチャンスです。以前に他の科を受診したことがあるような場合は、その先生に直接連絡してみると相談に乗ってくれるはずです。

4.セカンドオピニオンの受け方:その2

 今かかっている病院以外の病院でセカンドオピニオンを受けたいときは、主治医に今までの経過をまとめた紹介状を書いてもらうようにお願いして、血液検査データやレントゲン写真を持って受診するべきです。的確な判断をもらうためには、詳しい医学的な情報が必須です。患者さんだけでなく、主治医も他の病院の専門医からのセカンドオピニオンを欲しがっている場合もありますので、あまり心配せずに勇気を持って主治医に「セカンドオピニオンを受けたい」と申し出てみてください。受診する際には、患者さん自身も今までの経過をまとめて、疑問点を整理しておくようにして下さい。文字にして疑問点をまとめてみると、自分の考えがはっきりするはずです。

セカンドオピニオンでの質問の例

「診断名・進行期は正しいのか?」
「他に治療方法の選択肢はないのか?」
「どうしても手術が必要なのか?」
「手術方法には選択肢がないのか?」
「化学療法は併用すべきなのか?」
「治療に伴う危険性はどうなのか?」
「治療結果はどう予測されるのか?」
「将来はどういう状態になるのか?」
「死ぬとしたら、どういう死に方になるのか?」

 セカンドオピニオンの効用として、主治医の診断や方針の確認、治療の妥当性の確認、治療の選択肢の幅が広がる可能性などが指摘されています。しかしセカンドオピニオンで受診する患者さんの多くは、今までの病院で適切な診断や治療を受けており、そのことを十分説明してもらえば満足して主治医のもとに戻ることが多いようです。中には、あっちの病院、こっちの病院と、何人の先生の意見を聞いても迷ってばかりで決断できないタイプの患者さんもおられます。不必要に悩んでいても、新しい展開のスタートが遅れるばかりかもしれません。どこかで、踏ん切りは必要です。

5.セカンドオピニオン文化を広めたい

 最近は、医療の多様化、情報公開の流れ、患者さんの権利意識、医療不信などを背景に、セカンドオピニオンを希望されるケースが増えているようです。私自身は、昨年の1月から広島市内の病院でほぼ隔週の土曜日に、セカンドオピニオン外来を開設して色々な相談を受けています。またNPO法人「がん患者支援ネットワークひろしま」というボランティアグループの活動も開始しています。東京に転勤になったのを機会に、今までの仲間とともに広島のがん患者さんとの係わり合いを続けたいという気持ちで、これらの活動をスタートしました。
 「医療は文化」という言い方があります。私自身がセカンドオピニオンの相談に乗れるケースは限られていますが、あちらこちらの病院でセカンドオピニオン外来が始まって、広島にセカンドオピニオンという医療文化が根付き広く発展して、患者さんとご家族の不安が少しでも解消することを、強く祈念しています。

ひろかわ ゆたか
広川  裕 先生 ご略歴

昭和 27年  広島県生まれ
昭和 52年 広島大学医学部医学科卒業
昭和 56年 広島大学医学部附属病院 助手
昭和 57年 筑波大学粒子線医科学センター 研究生
昭和 62年 広島大学医学部放射線医学 講師
昭和 63年 米国コロンビア大学 客員講師
平成 4年 広島大学医学部 助教授
平成 16年 順天堂大学医学部放射線医学 教授

放射線医学、とくに放射線腫瘍学が専門。活動として、日本放射線腫瘍学会、日本医学放射線学会、日本食道学会、日本頭頸部癌学会などの理事・評議員を、NPO法人「がん患者支援ネットワークひろしま」の理事長などを務める。広島市内でセカンドオピニオン外来を開設している。

演題:インフォームドコンセントとがん告知

香川県立中央病院泌尿器科主任部長
朝日 俊彦 先生

はじめに

 インフォームドコンセントという言葉が頻繁に使われるようになって、すでに15年余になる。医療の現場では浸透しているようで、まだ十分とは言えない。がん告知にしても、ほとんどの日本人がほんとうのことを言って欲しいと思っているのに、医師と患者の溝は深いものがある。よりよい情報の共有と、医師・患者関係の向上を目指すのであれば、双方の問題点を明らかにし、それを解決するように取り組まなければならない。今回、医師の立場、患者の立場、コメディカルの立場で問題点を提供し、参加されている皆様にも一緒に考えていただきたいと思う。

インフォームドコンセントについて

 この言葉の意味しているところは、医療者が情報を提供し、その内容について患者・家族が納得した上で了解するということである。診察の手順として、医師は患者から病気についての情報を話してもらい、そこから、何らかの病気を疑うことになる。それを明らかにするために、検査を予定し、検査結果から病気を判断することになる。そこで、医師は何の病気を疑っているのか、この検査はなぜ必要なのか、検査結果はどうであったのか、そこから、どのような治療方法が考えられるのか、などについて逐一分かりやすく説明しなければならない。そこで大事なことは、専門用語を使わないということである。医学的な専門用語で説明されて納得できる患者はほとんどいないと思われる。それを、説明したから、分からないのは患者の責任であるがごとき発言は不適切だと思われる。
基本的な問題として、医師に要求されるのはコミュニケーションの技術をいかに上手に身に付けるかということである。患者や家族は質問したいことがあっても、医師の態度によっては、言えないことも多々あると思われる。できるだけ、患者や家族が質問したくなるような雰囲気を身に付けていただきたい。
 また、患者や家族も、自分の希望をはっきりと伝えることはとても大事なことで、そのためには、日頃から家族で、人生とは何か、病気とどのようにお付き合いするか、何が何でも延命なのかどうか、などなどについての話し合いをしておくことが求められる。

がん告知について

 一方、がん告知はずいぶんと広がりを見せているが、全体として見るとまだ不十分である。本人には隠して、家族にだけ真実を話す医師は少なくない。あくまでも本人の情報であるから、まずは本人に真実を伝えなければならない。病状によっては伝えにくいこともあるが、相手の心情を察しながら伝える話術を習得することも大事なことである。初期のがんであれば完全に治る可能性は高いが、進行の早いものや、すでに転移のあるものは、現在の医療水準では厳しい予後であることを認めざるを得ない。予後の見通しが悪い患者と話し合うとなると、医師の人生観、死生観が問われてくるようになる。人間が生きるということ、死ぬということはどういうことか、などについての学びを深める必要がある。
 治療方針を説明するにあたっても、いくつかの選択肢を用意し、それぞれの長所と短所を分かりやすく話した後で、好みのものを選択していただく。あくまでも治療方針を選択するのは患者自身であることを認識しなければならない。多少の危険を冒してでも手術をするのか、手術は避けたいのか、厳しい抗がん剤治療は受けたいのかどうか、などは患者自身が決めることであって、医師は本人が決めやすいような情報を提供しなければならない。その際、病気だけを見るのでなく、患者の家族関係や社会的な背景なども総合して判断できるような援助をしなければならない。時に、医師から脅迫めいた言葉をかけられたとの訴えがあるが、患者の悩みや迷う心に付き合うことも大事なことである。
 がんを告げられて、驚かない方は少ないと思われるが、日頃から、もしも夫婦のいずれかががんになればどうするかを話し合っておくことはお勧めである。最近では、インターネットなどで有益な情報を得ることができるので、それらを参考にして、突っ込んだ話し合いを持つことができる。難しい選択は、抗がん剤などの治療を積極的に行ってきたにも関わらず、がんが進行している場合である。さらに新たな抗がん剤を選択するのか、寿命であると受け止めて、死ぬ準備をするのか、早い時期からじっくりと話し合っておきたいことである。

おわりに

 がんという病気をあまりにも恐れすぎてもいけないし、甘く見てもいけないように思う。現実には、早期であればほとんどのがんは治癒可能であり、社会復帰も期待できるのである。しかし、再発や転移の発見は厳しいものがあると認識しなければならない。がんを恐れているのは、死を恐れているためである。死ぬことの何が恐いのかを考え、それを解決するように努力することで、穏やかで安らかな臨終を自分のものにすることができる。

あさひ  としひこ
朝日 俊彦 先生 ご略歴

昭和 47年  岡山大学医学部卒業
昭和 54年 岡山大学医学部講師・医学博士
昭和 57年より  香川県立中央病院泌尿器科部長 現在に至る

現在
岡山大学臨床教授、香川大学臨床教授、日本ホスピス在宅ケア研究会 副代表
日本尊厳死協会四国副支部長、香川ターミナルケア研究会世話人